Louisa May Alcott
アメリカ文学を代表する作家ルイーザ・メイ・オルコットは、1832年11月29日にペンシルベニア州ジャーマンタウンで生まれた。四姉妹の次女として育った彼女の両親は、社会改革に熱心なアビー・メイと教育者エイモス・ブロンソン・オルコットで、家族は彼女が2歳のときにボストンへ移り住んだ。父はそこで実験的な学校を開くとともに、ラルフ・ウォルドー・エマーソンやヘンリー・デイヴィッド・ソローらとともに「超絶主義クラブ」に参加し、この思想は若きルイーザにも大きな影響を与えた。
1840年代にオルコット一家は移住を繰り返しつつ、1845年にコンコードの「ヒルサイド」と名付けた家に落ち着く。この家庭環境は、エマーソン、ソロー、ナサニエル・ホーソーン、マーガレット・フラーなど、アメリカ文学史に名を残す人物たちの影響を直接受ける特別なものであった。一方で家計はいつも厳しく、ルイーザは教師や裁縫師、家庭教師として働きながら執筆に励んだ。1849年には、エマーソンの娘エレンのために書いた物語をまとめた『フラワー・フェイブルズ』が、彼女の初の著書として出版されている。
オルコット家は社会改革にも深く関わっており、1840年代後半には地下鉄道の隠れ家として逃亡奴隷を一週間かくまったこともあった。また、女性の権利運動を推進するセネカフォールズ会議の影響を受け、ルイーザは町で最初に選挙登録をした女性としても知られている。1860年、彼女は『アトランティック・マンスリー』誌でライターとして働き始めるが、翌年南北戦争が勃発すると看護師としてワシントンD.C.に赴いた。現地でチフスに感染してしまうものの、看護活動の中で家族に送った手紙は「ホスピタル・スケッチズ」として反奴隷制新聞に掲載され、彼女が広く知られるきっかけとなった。
戦後、ルイーザは“A.M. Barnard”という筆名で大人向けの情熱的な小説を次々と発表する一方、1867年には少女向け雑誌『Merry’s Museum』の編集を任される。出版社から少女向けの本を書くよう勧められたこともあり、こうして生まれたのが代表作『若草物語』である。1868年に出版された同作は、南北戦争後のニューイングランドで成長する四姉妹を描いた物語で、刊行直後から大きな成功を収めた。貧しさや社会的制約に立ち向かいながら成長する少女たちの姿は、多くの読者の共感を呼び、ある評論家は「6歳から60歳まで、あらゆる人々の心をつかむ最高の本」と称賛した。彼女はその後、『若者の小径』（Little Men）や『ジョーの少年たち』（Jo’s Boys）といった続編も執筆し、生涯で約270作品を残した。
晩年のルイーザは健康問題に悩まされており、当時は南北戦争中に受けた水銀治療による中毒が原因と考えられていたが、近年の研究では自己免疫疾患だった可能性も指摘されている。1888年3月6日、父の死からわずか2日後に脳卒中で亡くなり、マサチューセッツ州コンコードのスリーピー・ホロウ墓地に埋葬された。彼女は“作家の丘”と呼ばれる場所で、エマーソン、ホーソーン、ソローと並んで静かに眠っている。